アメリカでは写真付きの身分証明書の提示を求められることがよくある。
私が持っていたのは、パスポートと国際免許。
このうち国際免許は身分証明書としては何の役にも立たない。
アメリカ人はアメリカで発行された身分証明しか信用しない。
さすがにパスポートは正式な身分証明書になる。
でも、いつも持ち歩くっていうのは、ちょっとね。
だいたい私はよくモノをなくす。
それも大事なものから順番になくす。
万が一、パスポートをなくしたら大変である。
で、夫が推奨したのがNON-DRIVERS-ID。
簡単に取れるし、正式な身分証明になるという。
『簡単に取れる』というところがいいよね。
じゃあ、取りましょう!
ところが、このIDを取るために私は4回もDMV(陸運局みたいなところ)に足を運ぶことになる (;_;)。
《月曜日》
一度目の訪問。
必要書類(申請書、パスポート、現住所がわかる手紙2通)を持って行く。
なんと、休み!!
えーーーッ?! 月曜日にお役所関係が休み??
その代わり土曜日、日曜日に開いているかというと、そんなことはない。
DMVは火曜日から金曜日の週4日しか開いていないのだ。
信じられない・・・。
仕方ないから帰った。
《火曜日AM》
二度目の訪問。
今日こそは! と意気込んでDMVに向かう。
やっていた。
受付には長蛇の列が出来ている。
列の最後尾に並んで、じっと受付の様子を伺うと・・・
「がははははぁ~!!!」
と巨体を震わせながら爆笑し、
目の前にいる申請に来た人に話しかけ、
隣にいる同僚に話しかけ、
あっちの方にいるおじさんに話しかけ、
その合間にスイングしながら鼻歌を歌っている、
・・・・etc・・・・・
すっごく陽気なおばさんが仕事をしている。
名付けて『ガハハおばさん』。
本当に楽しそうによく笑うのだ。
ガハハおばさんは、どんなに行列が長くなっても気にしない。
自分のペースで仕事をする。
さて、私の順番。
書類を提出すると、ガハハおばさんの顔が曇った。
そして、とても残念そうにこう言った。
「ダンナさんのパスポートがないと受け付けられないの」
両腕を広げて首をゆっくり左右に振りながら・・・。
そんな風にされると、私まで悲しくなる。
仕方ないから帰った。
《火曜日PM》
夫のパスポートを手に三度目の訪問。
またまた長蛇の列。
列の向こうでは、ガハハおばさんが楽しそうに笑っている。
待つこと数十分、私の目の前の男の子の順番になった。
カウンターに座ると男の子が言った。
「今日が誕生日なんだ」
ガハハおばさんは大きく頷いて、
歯茎が見えるほどニーッと微笑み、
おもむろに
♪♪♪ Happy birthday to you~ ♪♪♪
と歌いだした。
ワンコーラス、最後まできっちり歌った。
で、最後に
がぁ~ははははぁ~!!!
と笑って、ようやく仕事を始めた。
行列はどんどん伸びている。
部屋の中には入りきれず、廊下まで人が並んでいる。
それでもガハハおばさんは焦らない。
自分のペースで仕事を続ける。
どれだけ待っただろう・・・ようやく私の順番。
ガハハおばさんは私のことを覚えていてくれた。
夫のパスポートを差し出すと、満面の笑み。
「あなたが英語が話せて良かったわ!」
なぁんて言っている。
きっと、ちゃんと自分の言ったことが伝わったのかどうか、相当心配していたんだろうね。
調子に乗ったガハハおばさんは、ペラペラとしゃべりだした。
ミッキーマウスがどうのこうの・・・ベラベラベラベラ・・・
こうなると私はお手上げ。
何のことやら、さっぱり理解できない。
でもガハハおばさんは気にしない。
自分が言ったジョークに自分で大ウケして、呼吸困難になりそうなくらい大笑いしている。
その様子がおかしくて、私も大笑いする。
行列はどんどん長くなる。
でもガハハおばさんは気にしない。
自分のペースで仕事をする。
ベラベラ話しながらも、ガハハおばさんの太い指はキーボードを叩き、受付手続き終了。
椅子に座って待っているように言われる。
しばらくすると、今度は隣のカウンターのおじさんに呼ばれた。
このおじさん、身体は大きいが気は小さい。
(ガハハおばさんとのやり取りを見ていて、そう感じた)
いつも心配そうな顔をして黙っている。
話をするときは、気の小ささそのままに小さな声でモゴモゴ話す。
名付けて『モゴモゴおじさん』。
モゴモゴおじさんが言うには、
「身元確認に2~4時間かかる。今日中には
できないから明日の朝もう一度来てほしい。」
すごく申し訳なさそうに話をする。
時間がかかるのは、モゴモゴおじさんのせいではないのに・・・。
それから、時間がかかる理由をモゴモゴと一生懸命説明してくれたんだけど、私にはイマイチ聞き取れなかった。
(せっかく説明してくれたのに、ごめんね)
最後に、
「パスポートはちゃんと返してもらったか?」
なんて事まで心配してくれた。
優しい人なのだ。
モゴモゴおじさんから見ると、私はよほど頼りない人間に見えたに違いない。
またしてもIDを手にすることなく、帰った。
《水曜日AM》
4度目の訪問。
今日こそは何としてもIDをもらって帰らなければ・・・。
ガハハおばさんはいつものようにパワフルに笑っている。
モゴモゴおじさんもいつものように心配そうに黙っている。
オフィスに入ると、モゴモゴおじさんが声をかけてくれた。
「書類は揃ったから大丈夫。列に並んで待っていて」
ホッ・・・ 今日はもらえそうだ。
ガハハおばさんが、
「写真を撮るから椅子に座って」
という。
私は言われた通りにする。
フラッシュが光り、あっという間に写真撮影終了。
と思ったら、ガハハおばさんの眉間にシワが・・・。
そして、首を振りながらこう言った。
「もっと笑ってね」
ん?! 証明写真を撮るときに笑っていいの?
私の聞き間違えか…???
とりあえず、ニーッと笑ってみる。
再撮影。
ガハハおばさんは満足気にニターッと笑って、こう言った。
”GOOD!!"
アメリカの証明写真は笑顔で撮るものらしい。
また一つ勉強した。
こんなドタバタを経て、どうにか入手したのが、このカード。
このカードのために一週間分の精力を使い果たしたような気がする。
疲れた。
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